【書評】されど愛しきお妻様
荻上チキさんの「みらいめがね」という本が面白かったのだが、その中で紹介されていた鈴木大介さんの本がとても医療人として親として常時意識しておくべきことがたくさん書いてあったので書評として残しておく。
「脳が壊れた」(鈴木大介著)
この本をまず先に読んだが、脳梗塞発症後の高次脳機能障害を発病からの混乱時期もしっかりと描写されていて回復過程まで当事者の苦悩が鮮明に記載されている。高次脳機能障害はやはりわかりにくい部分が多く症状の個人差も激しいため、実際の体感としては鈴木さんのように軽度の高次脳機能障害であっても脳が壊れてしまったのような自覚になるのであろう。
発病から徐々に回復していく過程も読んでいてとても勉強になるが、それよりとてもインパクトに残るのが先天的な発達障害がある鈴木さんの妻との絡み方。
今回の本にはサブタイトルで「大人の発達障害」の妻と「脳が壊れた」僕の18年間というサブタイトルがつけられているのであるが、まさに発達障害と高次脳機能障害の2人がお互いの症状を初めて理解しあうことで相乗効果をもたらし生活が改善してく様がとても面白く書かれている。
それまでずっと否定してきた妻の行動を自身が障害を持ったことで共感できるようになり、それまで変えようとしても変わらなかった部分ではなく、能力として優れている部分を生かし伸ばしていくことで、すったもんだしながら病後の生活を整えていく過程がとても素晴らしい。
発達障害は現在ではメジャーになり診断もつきやすく治療法も確立されてきているが、昔と比べて発達障害の人が増えているという見解より作者の「環境が障害を作り上げている」という点にはとても納得した。
戦後は第一次産業・第二次産業が主であったが、各方面の分野発達から第三次産業に代わっていきサービス業が増えたことでコミュニケーション能力も求められるようになり、軽度の発達障害も浮き彫りになってきただけのこと。共存しにくい世の中になってしまったことで障害として認識されてしまうことになったのだろう。
自分も注意障害と多動を持ち合わせていることを自覚しているのでよくわかるが、意識しようとできないものはできないのである。じっとしていること、物を忘れないこと、見落とさないことはどれだけ頑張ってもできないし続かない。できないことを無理にしようとするとただストレスになる。できない部分を指摘されると自分を全否定されたような気持ちになる。
こんなこと自分がよくわかっているのに、子供にはあれヤレこれはダメとつい行動を変えようとしてしまう始末。当事者意識を持っているのに自分の言動に生かされないことも障害の一つと言い訳したくなるが、子供が行動を起こさない、動かない原因は自分の働きかけの悪さにあることをこの本を読んで改めてよく理解した。
できること。できていることを伸ばしてあげる育児の基本をもう一度頭に叩き込んで(すぐ抜けてしまうとは思うが)子供のありのままを受け止めていこうと再度誓いました。