【書評】豚のPちゃんと32人の小学生
教育の一環で豚の飼育をした小学校の話は何となく知ってはいたが、実際にそのクラスの担任だった先生の書いた本をふと見つけたので読んだ。
「食育」として成立したかどうかを知りたくて読んだのだが、内容的には子どもたちと先生の苦労と命の選択を迫られた際の苦悩がまとめられていた内容だった。
結果的に食すのではなく卒業とともに飼育の継続を断念して食肉センターに引き取ってもらう結果となっているが、その結論に至るまでのクラスの討論や保護者や報道も交えた意見の混乱が詳細にまとめられていて、「食育」としての単純なテーマではなく、個々の感情も混ざった命の教育としての答えのでない重たい内容となっていた。
著者である黒田先生もいまだに正解が見つからないということであるが、Pちゃん飼育を一生懸命に行い難しいテーマに立ち向かった小学生の経験は大変大きいものだと思う。資金も子ども達で調達するため、自然に計算や社会経験も備わっていくことも、食肉センターの見学なども、ただ形の決められた社会見学などよりもいい体験だろう。ただ、そんな総合的な評価をせずに、表にみえる一面だけを見て裏側を知ろうともせず意見や批判をする大人の方に嫌悪感を抱いてしまった。
3年分の取材と記録が数時間のドキュメントにまとめられてしまえば、真実の部分もかなり割愛されてしまうだろう。マスコミは間違った視点を視聴者に植え付ける責任を感じているのだろうか。その点の報道側の興味を惹きつけるように仕上げないといけない葛藤も少し書いてあった。
やはり放送された部分だけで見解をしてくる全国からの批判に報道側も学校側も対応に追われてしまう結果になるのだが、この本は放送された部分だけを真に受けて何も広げて考えずに単純な批判をしている人にこそ読んで欲しいと思った。
物事に明確な正解がなくても、自分の意見が正しいとどうして押し付けることができるのだろう。強い否定意見だけが目立つ世の中が本当に好きになれない。子どもに読ませるかどうかを判断したくて読んだが、純粋な子ども達の努力と葛藤を知るために大人が読んだ方がいい本だった。特に批判ばっかりしている人こそ読むべきだ。目立つほど発信されない意見や考えの中にこそ思慮深いものがあるということを知って欲しい。
この本を書いた黒田先生は新任教師であったためかもしれないが、大人の意見も子どもの意見もしっかりと聞き入れながら考えられる感性を持っているとてもいい先生ということが伝わってきた。注目された取り組みだけに本当に大変だったのであろうが、こんな先生が担任だったら子どもたちは主体的に動くこともできてとてもいい経験ができるだろうなと感じた。結局小学校は教育内容とかよりも子どもを伸ばせる先生の影響力が大きいのではないかな。